大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和40年(ネ)73号 判決 1967年4月27日

主文

原判決主文第一項中、控訴人に対し金一九万七八六二円およびこれに対する昭和三六年七月二一日から支払済みまで年一割五分の割合による金員の支払を命じた部分を除き、その余を取り消す。

被控訴人の前項において取り消した部分の請求を棄却する。

控訴人のその余の控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じてこれを一〇分し、その九を被控訴人の負担、その余を控訴人の負担とする。

原判決主文第四項中金二〇万円の担保の提供を条件とする部分を取り消す。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、左記のほかは原判決の事実摘示(ただし、原判決五枚目表一〇行に「(31)」とあるのを「(30)」と、同裏七行から九行の括弧内を「第一、二回」と、八枚目表二行から四行の括弧内を「第四回」と各訂正)と同一であるから、これを引用する。

被控訴代理人は「被控訴人と控訴人は連帯して、昭和三五年一二月一九日、訴外上川産業株式会社から六〇万円を当初弁済期を昭和三六年一月二〇日と定めて借受けたが、その後同年五月九日まで弁済期の猶予を受け、結局被控訴人において同年七月一五日に右借受金の元本および約定利息全額を弁済したので、被控訴人は控訴人に対し、かねて両者間で締結した求償の約定に基づき、上川産業に対する弁済額と同額である六〇万円およびこれに対する昭和三五年一二月一九日以降右支払日まで日歩二〇銭の割合による利息の償還を請求し得べき求償権を取得した。そして、昭和三六年七月一五日、被控訴人と控訴人間において、控訴人から被控訴人に支払われた金員をまず右求償債務の弁済に充当する旨の合意が成立した。」と述べた。

証拠(省略)

理由

一  被控訴人が昭和三四年二月二〇日、控訴人に対して三一五万円を弁済期同年四月二〇日、利息日歩八銭の約定で貸渡したこと(以下これを「本件貸金」という)、被控訴人の控訴人に対する別口債権として、被控訴人は昭和三三年五月二一日、二五〇万円を弁済期同年六月二〇日、利息日歩八銭七厘の約定で、さらに昭和三四年二月二七日、五〇万円を弁済期同年四月五日、利息日歩八銭の約定でそれぞれ控訴人に貸渡したこと、被控訴人と控訴人間において昭和三五年一月一九日、右両者が連帯して訴外上川産業株式会社から借受けた六〇万円およびこれに対する右同日以降支払済みまで日歩二〇銭の割合による利息金を被控訴人が支払つたときは、控訴人から被控訴人に対し右支払金全額を償還する旨の約定が成立したことについての、当裁判所の認定は、「成立に争いのない乙第二四号識の三の記載および当審における控訴人本人の供述中右認定に反する部分はたやすく信用し難く、当審で提出された成立に争いのない甲号各証および当審証人沢村久二の証言によつては右認定を覆すに足りず、他に右認定を左右すべき証拠はない。」と附加するほかは、原判決の理由一および二の(二)(1)ないし(3)(原判決八枚目表八行から同裏四行までおよび九枚目表七行から一一枚目裏末行まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

しかして、成立に争いのない甲第四号証、原審(第一回)ならびに当審における被控訴人本人尋問の結果により成立が認められる甲第二号証の一、二、原審(第一、第三回)ならびに当審における被控訴人本人尋問の結果を総合すると、被控訴人は昭和三六年七月一五日、控訴人から支払を受けた一〇〇万円のうちから上記約定に基づき上川産業に対する借受金の元本および昭和三五年一二月一九日以降の約定利息全額を弁済したことが認められ、原審ならびに当審における控訴人本人の供述中右認定に反する部分は信用し難く、他に右認定を左右すべき証拠はないから、被控訴人は昭和三六年七月一五日、上記求償の約定に基づき、控訴人に対して上川産業への支払金と同額すなわち六〇万円およびこれに対する昭和三五年一二月一九日以降昭和三六年七月一五日まで日歩二〇銭の割合による利息の償還を請求し得べき求償権を取得したものというべきである。

二  控訴人は、本件貸金債権に対する弁済として昭和三五年一一月三〇日に二二〇万円、昭和三六年七月一五日に一〇〇万円をそれぞれ支払つたから、最早本件貸金債権は消滅したと主張するので判断する。

控訴人が被控訴人に対する債務の弁済として二二〇万円を支払つたほか、昭和三六年七月一五日一〇〇万円を支払つたことは当事者間に争いがない。そして、右二二〇万円の弁済日については、原審における控訴人本人尋問の結果により成立が認められる乙第三号証の一、二、前掲甲第二号証の一、二、原審における被控訴人(第一回)、控訴人各本人尋問の結果および本件弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は昭和三五年一一月三〇日、二二〇万円を旭川信用金庫銀座支店の被控訴人の預金口座へ振り込み、被控訴人は翌一二月一日控訴人からこの通知を受けてこれを了承したことが認められるから、被控訴人は昭和三五年一二月一日に右金員を受領したものと解するのが相当である。

しかしながら、控訴人が右の二二〇万円および一〇〇万円を被控訴人に支払つた際に控訴人または被控訴人からこれを本件貸金の弁済に充当する旨の意思表示がなされたことを認めるべき証拠はない。かえつて、前掲甲第二号証の一、二、原審(第一、第三回)ならびに当審における被控訴人本人尋問の結果および本件弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、本件貸金をした昭和三四年二月二〇日、控訴人から、借受金債務全額を一度に返済することは困難だが、できるだけ入金するからそれを弁済期の先に到来した債権から順次充当し、同一債権の中では利息、遅延損害金、元本の順序で充当してほしい旨申出を受けたので、これを承諾し、さらに上記五〇万円口の貸付けの際右充当の約定を再確認し、その後上記上川産業に対する借受金債務を弁済した昭和三六年七月一五日に控訴人から右上川産業関係の償還債務は日歩二〇銭の高利につき控訴人の支払金を先ず右債務の弁済に充当してほしい旨の要請を受け、被控訴人はこれを承諾したことが認められ、原審ならびに当審における控訴人本人の供述中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すべき証拠はない(もつとも、前掲の甲第二号証の一、二によると、被控訴人は右二二〇万円の入金に限り右認定と異なる充当仕訳により記帳していることが認められるが、この事実によつては未だ右認定を覆すことはできない)。

三  控訴人は、被控訴人に対する借受金債務の弁済として原判決別表二記載のとおりの金員を支払い、上記二二〇万円支払の当時においては既に二五〇万円および五〇万円の二口の貸金債権は完済されて消滅していたのであるから、右二二〇万円および一〇〇万円の支払金は本件貸金債権の弁済に充当されるべきである、と主張するので判断する。

(一)  控訴人から被控訴人に対する本件貸金債務を含む上記四口の債権に対する支払関係についての、当裁判所の認定は、「当審における控訴人本人の供述中右認定に反する部分は信用し難く、他に右認定を覆すべき証拠はない。」と附加するほかは、原判決の理由二の(四)(原判決一二枚目裏八行から一五枚目裏九行まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴人のなした弁済金の本件貸金債権を含む四口の債権に対する弁済充当の順位ないし優先弁済に関して控訴人と被控訴人間に特約のなされたことはさきに判断したとおりであるから、控訴人がその主張のように二二〇万円および一〇〇万円を支払つたことにより本件貸金債権が完済されたか否かは右認定の弁済金のすべてにつき、上記の特約に従い、四口の債権に対する弁済充当の関係を決定した結果を俟つて判断しなければならない。しかして右特約によれば被控訴人に対する前記認定の控訴人の支払金はその支払のなされた都度、被控訴人と控訴人が上川産業から六〇万円を借受けた昭和三五年一二月一九日以前においては、弁済期が最初に到来した前記二五〇万円口貸金債権についての約定利息、遅延損害金、元本、弁済期が次に到来した前記五〇万円口貸金債権についての約定利息、遅延損害金、元本、弁済期がその次に到来した本件貸金債権についての約定利息、遅延損害金、元本の順に順次充当され、昭和三五年一二月一九日以降においては、先ず上川産業からの前記借受金返済に関する求償契約に基づく元本六〇万円および利息日歩二〇銭の割合の求償債権に対して優先的に充当され、その弁済を了した後は、再び前記貸金債権中弁済未了のものに対して前記の順序により充当されたことになる。

(二)  ところで、本件貸金債権を含む上記三口の貸金についての利息の約定は、いずれも利息制限法第一条第一項所定の制限(二五〇万円口の貸金と本件貸金については年一割五分、五〇万円口の貸金については年一割八分)を超過しているから、右超過部分に関する限り無効である。また、弁済期後の遅延損害金については、損害金として利息制限法第一条の制限をこえる利率によつて賠償をなすべきことを特約した場合には、その特約に従い同法第四条所定の制限の範囲内で賠償を請求できるが、右特約のないときは、約定利息の利率によつて賠償額を算定すべきものであり、このような場合にその約定利息が同法第一条所定の限度をこえて定められているときは、約定利息は右の制限利率範囲内においてのみ有効であるから、遅延損害金もこれと同じ範囲内においてのみ請求し得るにとどまるものと解すべきである。本件においては、右賠償額の予定の特約についてなんら主張がないのであるから、本件貸金と上記二五〇万円口の貸金については年一割五分、五〇万円口の貸金については年一割八分の割合による遅延損害金を請求し得るにとどまるものといわなければならない。

(三)  上記上川産業からの借受金六〇万円についての利息約定も利息制限法第一条第一項所定の制限利率(年一割八分)を超過し、右超過部分に関する限り無効であるから、連帯債務者である控訴人および被控訴人はいずれも上川産業に対して右超過部分の利息債務を負わないものである。しかも、上記被控訴人と控訴人間の求償の約定は、実質的には、被控訴人の責任で弁済しもつて控訴人・被控訴人共同の免責を得べきものとされた借受元利金債務の存在を前提とし、連帯債務者間の内部関係において控訴人がその全額を負担する旨を定めた負担部分に関する約定に過ぎず、上川産業に対する債務の存否とは無関係に、被控訴人の上川産業に対する支払金につきいわば無因的に償還債務を負担する趣旨のものではないと解するのが相当である。したがつて前示求償契約における利息についての約定中利息制限法による制限利率を超過して約された部分は請求できないものであるといわなければならない。

(四)  そうすると、上記のとおりの弁済充当により、控訴人が利息制限法所定の制限を超過した利息および遅延損害金として支払つたことになる部分は弁済の効力を生じないから、民法第四九一条により、当該債務につき既に発生している利息または遅延損害金の未払部分があれば弁済期到来の順に先ずその部分に充当し、右部分がないかもしくはそれに充当してなお余りがあれば、これを当該債務の残存元本に充当することになり、さらに、右充当の結果ある口の貸金または償還債務について利息、遅延損害金とあわせて元本全部を完済しても他の口の貸金債務が残つているときは、右の制限超過部分の支払は、その充当に関しては新たな支払があつたのと同視して上記弁済充当の合意に基づく順序により他の口の債務の弁済に充当するのが相当である。

(五)  そこで、控訴人が被控訴人に対し本件貸金を含む上記四口の債権に対する弁済として支払つた別表の最上段(1)ないし(26)(ただし支払の順は(1)ないし、(20)、(23)ないし(26)、(21)、(22))記載の各金員は、それぞれその支払の都度同表第二段以下に記載のとおり弁済充当されたことになり、これによると控訴人は被控訴人に対し、本件貸金債権についての弁済として元本のうち二九五万二一三八円ならびに昭和三四年二月二〇日から昭和三六年七月二〇日までの利息および遅延損害金を支払つたことになるから、控訴人の被控訴人に対する本件貸金債務は右の範囲でのみ弁済によつて消滅したものというべきである。

四  そうすると、控訴人は被控訴人に対して本件貸金の残元本一九万七八六二円およびこれに対する昭和三六年七月二一日から支払済みまで利息制限法所定の制限範囲内である年一割五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、被控訴人の本訴請求は右認定の限度においてのみ正当として認容すべきものであり、その余は失当として排斥を免れない。

よつて、原判決中、右と判断を異にし控訴人に対して右認定の限度をこえて金員の支払を命じた部分は失当であるから、民事訴訟法第三八六条によりこれを取り消し、右取り消した部分の被控訴人の請求を棄却し、控訴人のその余の控訴は理由がないから同法第三八四条第一項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九六条、第九二条を適用し、なお原判決主文第四項中金二〇万円の担保の提供を条件とする部分は相当でないからこれを取消すこととして主文のとおり判決する。

別表

<省略>

Ⅰ 二五〇万円口の債権に対する充当

<省略>

<省略>

Ⅱ 五〇万円の債権に対する充当

<省略>

Ⅲ 三一五万円の債権に対する充当

<省略>

Ⅳ 六〇万円口の求償債権に対する充当

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例